Ⅳ.非医師による病院経営方法

Ⅰ.法の建前と運用

1.クリニックの実質的経営者には誰でもなれます。
形式上も経営者になれるか?
答えは開設後5年経っていれば、なれます。

2.形式上の経営者

(1)医療法上は都道府県庁の許可を得れば誰でもクリニックの開設者になれます。
※医療法7条はこう規定しています。
医師法第16条の4第1項の規定による登録を受けた者及び歯科医師法第16条の4第1項の規定による登録を受けた者でない者が診療所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事の許可を受けなければならない。

(2)運用上は、そのクリニックは開設後5年経っていないと非医師が開設者となることは認めてくれません。

Ⅱ.ケーススタディ:企業による間接的な病院経営
  ※企業が病院を直接経営することは医師会の反対が強く実際上認められません。
   そこで、企業が医療法人を買収し、間接的に経営する手法が採られています。

1:都内に2019年スタートした病院(医療法人)
  実質的には医療機器メーカーが支配している

2:支配の態様

3:2のスキームの違法性

 1)形式上、医療の売上はBに帰属するので法律上問題ない

 2)支配は別として、医療周りをAのような企業がサポートすることは昔から広く行われており、
   Aのような企業はMS法人(メディカルサポート法人)と呼ばれている。
 → A社のような上場企業がMS法人を事業として行っても何の問題もない

Ⅲ.最初の5年間をどう乗り切るかが最大のポイント

1.次の5つの事実がとても重要です。

    • A. 最初の5年間はクリニックの開設者に医師を据えなければならない。
    • B. 医師は非医師に支配されることを極端に嫌う。
    • C. 医師は免許を持っている限り食いはぐれることはない
    • D. 医師は複数のクリニックの開設者にはなれない
    • E. 開設者である医師が辞めたらクリニックは閉院しなければならない。

2.次の事例を考えてみて下さい。<事例>
佐藤株式会社の佐藤泰郎さんはクリニック経営を思い立ち、知り合いから鈴木医師を紹介してもらい年俸3千万円を保証して「にこにこクリニック」の開設者になってもらった。佐藤さんはさらに3名の医師を雇い月の売上げも5千万円を突破するようになった。
ところがスタートから1年半経って鈴木医師が国際学会に出席するためと称して長期間海外旅行に赴くことに佐藤さんが反対したところ鈴木医師は翌日からクリニックに来なくなり辞表を郵送して来た。
佐藤さんは慌てて残りの3名の医師に開設者になってくれるように頼んだが3人共他のクリニックの開設者となっているということで断わられた。
やむなく佐藤さんは「にこにこクリニック」を閉院せざるをえなくなった。

3.2のような事例は実際にもありがちな事例です。
普通の人なら年俸3千万円もらえるなら大抵のことはガマンしますが、医師はもともと非医師に支配されることを極端に嫌っていますし年収1500万円くらいならどこでも稼げるので年俸3千万円くらいなら大して執着しません。
非開設者として医師を雇用するのは簡単なことですし辞めてもすぐ代わりは見つかりますが、開設者としての医師を見つけるのは大変なことです。
既に他で開設者となっている医師は使えないからです。
開設者になってくれる医師をどうやって見つけて、5年間その医師と仲たがいせず持たせることがとても重要なのです。

A美容外科グループでは次のような経営が行われています

      • 1、実質的な経営者は非医師のX氏。X氏はMS法人の代表者。
      • 2、Aグループでは全国各地に美容外科クリニックを立ち上げ。
      • 3、院長報酬以外のコストー広告費、テナント料、人件費、機械、薬剤―はすべてMS負担
      • 4、月商から3のコストを除いた粗利の5割を院長に報酬として支払う
      • 5、月商が1千万を割ったら院長は解任
    • Ⅳ、医療法人のメリット①クローズリスク1、個人のクリニックXはその院長A医師と仲たがいしてその院長A医師が廃業届を役所に出しに行けばそれでクローズで、すべては終わりです。2、しかし、医療法人(社団ないし財団)だと、少々違います医療法人薬事会を作り、その傘下に院長がA医師であるクリニックXを置きます。医療法人薬事会・・クリニックX:院長A医師3、2のストラクチャーですと、A医師がクリニックXの廃業届出を役所に出しても、医療法人薬事会は残ります。つまり、そこですべでENDにはなりません。

      4、しかも、医療法人の理事長は歯科医師でも構いません。傘下のクリニックが歯科でなくても構いません。

      5、このように多角化すると、わがままなA医師を院長とするリスクが多少減少します

      Ⅴ、医療法人のメリット②運営上のメリット

      1、医療法人化するメリットとして、運営上のメリットが2点あります。

      2、一つは、クレジットです。

      自由診療ならクレジットカードは当り前ですが、個人のクリニックだと、その与信先は院長個人になります。なぜなら、個人クリニックは院長の個人事業という位置づけになるからです。

      そうすると、場合によっては、あまり大きな与信限度額を組めないということもありえます。

      医療法人だと院長個人の与信とは別の話になります。

      3、もう一つは、事業税です。

      個人クリニックは院長の個人事業という位置づけになるので院長個人に事業税がかかってきます。

      これをどうするかを考える必要があります。

      医療法人だと課税は法人で完結します。

      Ⅵ、医療法人のデメリット

      以上のように、医療法人にはいろんなメリットがありますが、デメリットもあります。

      それは、設立の審査が厳格化しているということです。

      背後にスポンサーの影が窺えるとNGです。

      そこで、新設を嫌い、既存の医療法人の譲受を考えるケースもあります。

    • V.健康保険自己負担5割時代に生き残る方法

    • 健康保険で自己負担5割という時代が5年以内に訪れるかもしれません。
      クリニック経営の観点からそういう時代の備えについて考えてみたいと思います。
    • 保険診療の自己負担が上がればクリニックの売上は減るのか?

      保険診療の自己負担が上がればクリニックに来る患者が減ってクリニックの売上が減るこ
      とになるのでしょうか?

    • 結論はYES.
    • そのことを証明する面白い研究を紹介しましょう。
  • カナダのサイモンフレイザー大学に所属する重岡助教授の研究によると「もしも自己負担額が医療サービス利用に影響を与えるならば70歳以上の患者は70歳未満の患者に比べて
  • 医療サービスを多く利用するのでは」という仮説で研究したのが上記のグラフです。
  • グラフの横軸は年齢です。
    グラフの縦軸は外来患者として医療サービスを利用した人の数を
    対数で表しています。グラフから読み取れることは2点です。1.65歳から72歳までのデータを見る限り年齢が高いほど
    外来患者として医療サービスを利用しています。これは年齢が増えるほど健康上の問題がでてくるからではと
    思われます。2.70歳の境界線でいきなり患者数が爆罰的に増えています
    70歳を境に突然健康状態が変わるとは思えません。この爆発的な増加は医療費の自己負担額の変化に起因するものと思われます。

重岡助教授の研究から、もしも、保険診療の自己負担が上がればクリニックに来る患者が減ってクリニックの売上が減ることになることが予想されます。